2023年3月5日日曜日

二月堂修二会で使う「灯芯」について

お水取りに灯芯を奉納されている奈良県生駒郡安堵町の「 灯芯保存会」の方から、「お水取りの期間中に灯芯を使って、ホテルの館内に明かりを灯しませんか」というお話をいただき、2月23日、別火坊で「花拵え」と「灯芯揃え」が行なわれていた日に、灯芯をお持ちくださいました。

初めて間近で見る灯芯。見た感じは素麺の束のようですが、触ってみるとスポンジのような手触りで、これが藺草いぐさの茎の中から引き出した「ずい」という部分になります。
ちなみに、この藺草から「ずい」を引き出す技術は安堵町にしか残っていず、東大寺修二会・法隆寺修正会・薬師寺花会式・元興寺地蔵盆などの行事で使われる灯芯は安堵町の「灯芯保存会」から奉納されています。

どのようにして灯すのかを実演していただきました。
家庭にあるお皿を二枚(油垂れ防止のため必ず二重にする)用意し、少量の食用油を入れて、6~7cmに短くした灯芯3本を油に浸して、その先に火をつけます。火は灯芯が吸い上げた油が燃えるので、灯芯自体は燃えず、油が無くなれば消えます。

昨年、先代小綱の堀池春慶さんが取りに来てくださった時の写真↓からも、灯芯の長さを想像していただけると思いますが、実際の灯芯の長さは1mくらいはあるようです。
(コロナ禍になってからは東大寺から受け取りに来てくださるそうで、余談ですが今年は管長さんが来られたとか)
興味を持ってくださったお客様に差し上げて下さいと「灯芯」をいただいています。↓(数に限りがありますが、興味を持って下さったお客様はお声かけて下さい)
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さて、「花こしらえ」の写真は毎年新聞記事になっていますが、同じ時間に花拵えをしている傍で「灯芯揃え」が行なわれていることを偶然にも今年初めて知りました。
新聞記事の写真↑より、奥の方で和上さんと処世界さんがその作業をされているところを、今年は親子でなさるからでしょうか、初めて写真で見ることが出来ました。

ではその「灯芯揃え」ではどのようなことをされるのか?
小学館『東大寺お水取り 二月堂修二会の記録と研究』p108に詳しく載っていました。
燈芯揃えは、本来の長さ90cmの灯芯の束二把に、湯をかけて前日から湿しておく。これを裁物板と裁物包丁を使って、必要な長さと必要な数に切り分けて、使用目的ごとに3ミリ幅ほどの半紙でくくり、灯芯箱の引出しに、種類別に納める。

燈明の種類と必要とする灯芯についても書かれていますが、それを「灯芯保存会」さんが一覧表にまとめられたので、その写真を貼っておきます。
それにしても、たくさんの種類の燈明がありますね。
この表↑に書いてある「牛玉の燈芯…須弥壇結界用」と「牛の華鬘…牛の置物の鼻先の飾り」というのがちょっと気になりまして、こちらも、小学館『東大寺お水取り 二月堂修二会の記録と研究』に写真が載っていました。
この写真の左上をご覧ください。
須弥壇結界用の灯芯が見えます。
またこちら↓の写真は、顔面に灯芯の華鬘が掛けられた牛で、須弥壇上西南隅に置かれています。
「牛玉の燈芯」は12日の日没終了後に掛けられる結界で、燈芯を掛けることによって火災除けになるとされていたようです。
牛の置物は、それまで須弥壇の箱の中に置かれていた牛を、同じく12日に取り出して、結界の灯芯をこの牛につけた華鬘に結びつけるとあります。
……ということで、修二会における灯芯の果たす役割の重要さを、今更ながら知ることができました。
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奈良倶楽部館内で灯された燈明の明かり。
そこはかとなく炎が優しく感じられます。
ところで、奈良倶楽部で以前から飾っている「鹿」↓は、藺草から灯芯のずいを取り除いた外側のいがらで作られたものです。


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今回ご縁をいただいた「灯芯保存会」では「灯芯ひき体験」などもすることができます。体験の日時については「安堵町歴史民俗資料館」のHPに掲載されています。(3月は3/26に開催)