コロナ禍の中での「正倉院展」は、全日「前売日時指定券」で観覧し、当日券の販売はないという形で開催されています。
入場者を例年の5分の1に減らしての観覧。1時間に約260人という鑑賞者数は、程よい距離感でゆったり落ち着いて鑑賞できるという利点もありましたが、今年の正倉院展はあきらめましたというお客様の声もあり、少しハードルが高い状況となった感もあるようです。
※正倉院展に来られなかった皆様へ、今年はオンラインでお楽しみくださいと、主な出品宝物を紹介するオンライン鑑賞動画が10/25~11/30まで、読売新聞オンライン正倉院展特設サイト★で配信されます。
今年も初日に鑑賞してまいりました。長文になりますが、自分メモも兼ねての鑑賞記を書きましたので、よろしければお付き合い下さい。
毎年、チラシやポスターに取り上げられた宝物がその年のメインだと、そればかりをお目当てに鑑賞してしまうのですが、今年はじっくりとキャプションを読みイヤホンガイドを聞きながら、一点一点丁寧に観ていきました。会場のキャプションより
まず、正倉院宝物のはじまりについて・・・
ご存知のように、756年6月21日、聖武天皇の四十九日にご遺愛品約650件を光明皇后が東大寺に献納したことが始まりですが、装身具・楽器・武器・武具・鏡・屏風など多岐にわたる献納品の3分の2近くが武器武具で、殺生の道具を仏に献ずることに献納の大きな意味があったということです。(しかし、その後に起きた藤原仲麻呂の乱を平定するために出蔵した武器武具の大半は戻らなかったそうです。)
また、光明皇后はご遺愛品の他に、薬物60種類も併せて同じ日に献納されています。これは、薬物で仏を供養し薬を必要とする病人に分けるためでもありました。
そんなことで、一番最初の出陳品は武具の「御甲残欠(よろいの残欠)」
そのあと、第一展示室ではたくさんの薬の出陳が続きます。この「五色龍歯」↓は、ナルバダゾウの上顎の歯の化石で、鎮静に用いられたそうで、色々なものが薬になるのですね。その他に、「遠志おんし」↓はイトヒメハギの根を乾燥させた束を紐で閉じたもの。去痰、滋養強壮の効能あり。今も成分が残っているのだそう。すごいですね。血行改善、下剤の用途があった「大黄だいおう」↓
「芒消ぼうしょう」↓現在でも下剤に使われている硫酸マグネシウムの天然結晶。
「紫鉱」↓植物の枝に寄生するラックカイガラムシの分泌物。枝についた状態のまま保管されていて、止血や内臓の働きをよくする薬として用いられました。
・・・と、コロナという疫病の時代を生きる今年は薬の出陳が多く、奈良時代の疫病にも思いを馳せながら興味深く見入っておりました。
施薬院などの施設を作って病人の救済事業に尽力された光明皇后の献納。宝物の献納は光明皇后の主導で行われたと、今まではそのように認識していたのですが、今回の図録の、内藤栄学芸部長による概説を読むと、聖武天皇の意思が大きく関わっていたのではとあり、また驚きでした。(詳細は図録をご覧ください。)
その他に、もちろん今年も、正倉院宝物ならではの美しい工芸品がたくさん出陳されていました。
フェルトの敷物はこちら↑を含めて3点出ていました。これはユニーク!曲芸や楽人が墨で描かれた弓や
刺繍好きにはたまらない!孔雀の刺繍の幡や
珠や刺繍で飾った帯の残欠。(かなりの好みでした↑)
多種多様な材を使って作られた手の込んだ工芸品もすごいです。
もっと手の込んだものもありました。
この碁盤も、蘇芳で染めたヒノキの一枚板の上に桑の薄板を多数貼り寄せて(桑の薄板はそれぞれが美しい同心円状の木目のあるもの)盤面を装飾して、盤面の条線は象牙、花形の星は象牙・黒檀・金線を象嵌しています。また側面は象牙で五区に分け、撥鏤で草花や虫の文様を表したものやヤコウガイに花文を毛彫りしたものを嵌め、それぞれの区画を幾何学文を表した木画で額縁風に縁取っています。脚の表面には金泥で木目風の文様が描かれ、縁には象牙を貼っています。
様々な工芸技法が駆使されて、これでもかというくらいに趣向が凝らしてあって、見ているだけで圧倒されました。
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「前売日時指定券」で観覧という初めての試みでしたが、無事開催していただけて、会場を後にして思うのは、今年も正倉院展を鑑賞できたという満足感と感謝の気持ちです。佳きものはいいですね。