先日のブログ★でご案内した「賞道」について、知らない世界を勉強してみたいと、9/22に山村若女さんのお稽古場で開かれた「茶論 雪月花」に参加してみました。
第一回めのゲストが「賞道」という新美術鑑賞活動を提唱されている、デジタル復元師の小林泰三氏。さて、どのようなお話を聞かせていただけるのか。(何しろ奈良は国宝の宝庫。お寺の特別拝観や国立博物館でも本物を観る機会が多く、正直、デジタル復元されたものに美を感じるのか・・・?という気持ちが無きにしも非ずで、やや冷めた目で参加したことを先に告白しておきます。)
でも、そのような「冷めた目」はすぐに氷解して「賞道的鑑賞法って面白い!」になるのですが。この日にお聞きしたお話で覚えているところを、記憶を頼りに記してみます。
今回の茶論のテーマが「月」。小林さんは 「国宝・日月山水図屏風」 を紐解きながらお話を奨めます。
「国宝・日月山水図屏風」 は、ご自身が修復作業に携わっていらっしゃった時に重文指定を受け、昨年国宝になった河内長野市の金剛寺にある屏風です。
右隻むかって右より春の山・夏の山、左隻むかって右より冬の山・秋の山が描かれて、春夏冬秋の順になるのが不思議という説明から
例えば、博物館や美術館で鑑賞する場合は、右隻、左隻を横一列に並べて置かれていることが多いのですが
右隻、左隻を手前と後ろ側に置いてみると
つまり、鑑賞者はこのような順路で鑑賞するので、春夏から秋冬と景色が移っていくので、かつては屏風をこのように置いて鑑賞されていたのではと、復元を通して気付いたそうです。
復元した屏風の絵を見ると、緑色と銀色を使ってとてもモダンなデザイン。そして山自体が波に見える描き方。月や月の周りに銀箔を多用して、それが見る角度や光の具合で、背景が夜のように暗くなったり、月が明るく光ったり。金色の太陽に比べて銀色の月は、第一番の輝きではないかもしれない。・・・からのデジタル復元を通して得た「銀閣寺は月を楽しむためのテーマパークだった」という考察、そして日本人の月へのこだわりなどをお話くださり
続いての山村若女さんのお話では、金屏風はご祝儀物でしか使わないが、銀屏風はオールマイティに使える。また「日月山水図屏風」をイメージしてつくったお扇子も見せていただき、舞では、お扇子を使って型を表現し見る人が想像するというお話や、「月」にちなんだ舞の話などなど。
その後、お菓子とお抹茶をいただいて、
和蝋燭の灯りのもとで若女さんの地歌舞「小簾の戸こすのと」を。 燭台の揺らめく灯りと銀屏風、10分前後の舞のひとときはまるで幽玄の世界でした。
(ちなみに、地歌舞は10分前後で艶物が多いそうです)
そして倉橋さんも入って3人でのトークでは、俳人・舞踊家・日本美術の専門家というそれぞれの立場からの、「月」をテーマにした日本人の美意識について話が弾みます。
そのようなお話の流れの中で、デジタル復元された「平治物語絵 六波羅合戦巻」を使って、絵巻物の本来の鑑賞法を教えていただきました。それは、少しずつ巻物を解いて観て、見終えた部分は巻き閉じていくという見方で、時の流れに沿って場面が動いて見えるのです。
この場面↓は、勝者であり続けている事のむつかしさが描かれていて、うつろいの中に価値を見出す、輪廻し続けているところに永遠を求めるという、日本人の美意識が描かれているという考察。
本来の鑑賞法とは違って、美術館では、絵巻物は平たく開いて展示して西洋美術的になっているが、日本美術はそういう見方をしないということがよくわかりました。
このように間近で拝見して、実際に触って巻いたりして楽しめるのも、デジタル復元されたものがあるおかげだということ。
日本美術の見方・楽しみ方の幅が広がり、それでまた本物を楽しむことができる。
本当に目から鱗な貴重な鑑賞法でした。
最後は 倉橋さんの即興俳句「月光や 銀色の雪 かと思う」で締めていただきました。ありがとうございました。
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山村若女さんのお稽古場で開かれる「茶論 雪月花」は、今後も季節ごとに開催予定で、多彩なゲストを招き、色んなジャンルのお話を伺う場にしたいということです。
また「賞道」については「小林美術科学」のサイトをご覧下さい。