2025年12月20日土曜日

「岡野松壽」なら工藝館

知らぜらる奈良一刀彫の始祖「岡野松壽」の作品が一堂に会する展覧会が、1月18日まで「なら工藝館」で開催されています。

江戸時代から明治時代にかけて十三代にわたり、奈良一刀彫の始まりを築いたのが岡野松壽家で、その貴重な作品を収集研究された岡本彰夫先生の所蔵品を拝見できる、またとない機会になります。

ちなみに「奈良一刀彫」というのは明治になって命名されたもので、古くは「奈良人形」といいました。
その奈良人形(奈良一刀彫)は、平安時代末期の「春日若宮おん祭」で使われた神事用の人形~写真の田楽法師の花笠↓や、盃台を飾った彩色の人形~が起源といわれています。
盃台というのは、小さな人形などで飾られた盃をのせる台で、興福寺が宴席で使っていたもの。(今はほとんど残っていないそうです)

今回の展覧会には、盃台に取りつける小さな人形が出ていました。
非常に古いもので、現在最古と思われる奈良人形だそうです。

岡野松壽作品には、初代から八代までは署名がなく、九代から作品に銘が入っています。

祭具や土産物とされていた奈良人形を賞玩の域にまで高めたのが、九代「保伯やすひろ」と十代「保久やすひさ」で、十代保久の作品には「恥」という銘が刻まれていて、常に未熟であることを自覚し、精進を忘れないという謙虚な姿勢を示していたとされています。
その「恥」の銘も展覧会で拝見できますので探してみて下さい。

展覧会では
・古式奈良人形 八代松壽以前に製作されたと思われる奈良人形
・名工として知られた九代「保伯」と十代「保久」の作品  
・九代十代の流れを汲みつつ伝統を重んじた十二代「惟孝これたか
・十三代「保徳やすのり」の作品 
・・・・など、岡野松壽活躍の時代の作品が展示されています。

十二代「惟孝」の武者人形↑と、九代「保伯」の五月人形↓
(写真は岡本先生のご本から拝借しています)

武者人形や五月人形、高砂などの大きな作品だけでなく、根付などの小品も素晴らしく、九代・十代・十二代の根付が並ぶガラスケースの中は、ミニチュアながら奈良人形の素晴らしさを堪能できる宝石箱のようでした。

また、鶴や宝珠、雀、鯛など、九代・十二代・十三代の香盒が並んでいるガラスケースの中も魅入ってしまいます。
そして何と、ここに九代の元興寺八雷神の香盒もあり!
※余談ですが元興寺八雷神についてはこのような取り組みも!
是非ご支援ください。

先日「女将の会」で勉強会のあとに、岡本先生の解説で鑑賞させていただきましたが、私自身が奈良人形について詳しくなくて、今回ブログを書く上で先生のご著書「奈良の人が知らない奈良の話」「大和のたからもの」「奈良古物散策」の3冊をもう一度読み返したり、ネットを検索したり、直接お尋ねしたりしました。

その中で、松壽の作品について何代目の作品かを特定することの難しさについても伺いました。
上の写真の五月人形の作者が九代「保伯」だと特定できたのは数年前のこと。十二代「惟孝」の武者人形も最初は九代「保伯」と断定したが、後年、柳生藩国家老の小山田主鈴が還暦記念に松寿に作らせたのが十牛香盒(こちらも出展されています)である事がわかり「惟孝」を特定できたのだそうです。
とにかく松寿を調べるには松寿を集めねばならなかったこと、40年間の成果だそうで、その素晴らしい成果を拝見できることの有難さをしみじみと感じた次第でありました。
この機会に是非ご覧にお出かけくださいませ。

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知らぜらる奈良一刀彫の始祖「岡野松壽」
会場:「なら工藝館
会期:2026年1月18日(日)まで
開館時間:10時~18時(入館は17時半まで)
休館日:毎週月曜日と年末年始(12/26~1/5)
※月曜日が祝日の場合は開館・その翌日が休館
入館料:無料